特定価格の定義
特定価格とは、市場性を有する不動産について、法令等による社会的要請を背景とする鑑定評価目的の下で、正常価格の前提となる諸条件を満たさないことにより正常価格と同一の市場概念の下において形成されるであろう市場価値と乖離することとなる場合における不動産の経済価値を適正に表示する価格をいう。
特定価格を求める場合を例示すれば、次のとおりである。
(1)各省第3章第1節に規定する証券化対象不動産に係る鑑定評価目的の下で、投資家に示すための投資採算価値を表す価格を求める場合
(2)民事再生法に基づく鑑定評価目的の下で、早期売却を前提とした価格を求める場合
(3)会社更生法又は民事再生法に基づく鑑定評価目的の下で、事業の継続を前提とした価格を求める場合
(出典:不動産鑑定評価基準)
不動産鑑定評価基準 運用上の留意事項
① 法令等について
法令等とは、法律、政令、内閣府令、省令、その他国の行政機関の規則、告示、訓令、通達等のほか、最高裁判所規則、条例、地方公共団体の規則、不動産鑑定士等の団体が定める指針(不動産の鑑定評価に関する法律第48条の規定により国土交通大臣に届け出をした社団又は財団が定める指針であって国土交通大臣の確認を経て当該団体において公表形成がなされたものをいう。以下同じ。)、企業会計の基準、監査基準をいう。
② 特定価格を求める場合の例について
特定価格を求める場合の例として掲げられているものについて、それぞれの場合ごとに特定価格を求める理由は次のとおりである。
ア 各論第3章第1節に規定する証券化対象不動産に係る鑑定評価目的の下で、投資家に示すための投資採算価値を表す価格を求める場合
この場合は、投資法人、投資信託又は特定目的会社等(以下「投資法人等」という。)の投資対象となる資産(以下「投資対象資産」という。)としての不動産の取得時又は保有期間中の価格として投資家に開示されることを目的に、投資家保護の観点から投資不動産の収益力を適切に反映する収益価格に基づく投資採算価値を求める必要がある。
投資対象資産としての不動産の取得時又は保有期間中の価格を求める鑑定評価については、上記鑑定評価目的の下で、資産の運用計画等により収支計算に照示される収益の運用方法を所与とするが、その運用方法による使用が対象不動産の最有効使用と異なることとなる場合には特定価格として求めなければならない。なお、投資法人等が投資対象資産を譲渡する際に依頼される鑑定評価で求める価格は正常価格として求める必要がある。
イ 民事再生法に基づく鑑定評価目的の下で、早期売却を前提とした価格を求める場合
この場合は、民事再生法に基づく鑑定評価目的の下で、財産を処分するものとしての価格を求めるものであり、対象不動産の種類、性格、所在地の実情に応じ、早期処分可能性を考慮した適正な処分価格として求める必要がある。
鑑定評価に際しては、通常の市場公開期間より短い期間で売却されることを前提とするのであるため、早期売却による価格が生じないと判断される特段の事情がない限り特定価格として求めなければならない。
ウ 会社更生法又は民事再生法に基づく鑑定評価目的の下で、事業の継続を前提とした価格を求める場合
この場合は、会社更生法又は民事再生法に基づく鑑定評価目的の下で、現状の事業が継続されることを前提として当該事業の枠内において存続される価格を求めるものである。
鑑定評価に際しては、上記鑑定評価目的の下で対象不動産の現利用現況を所与とすることにより、前提とする使用が対象不動産の最有効使用と異なることとなる場合には特定価格として求めなければならない。
特定価格に関する解説
解説
a. 特定価格の性格
特定価格の定義のうち、「正常価格の前提となる諸条件を満たさないことにより、正常価格と同一の市場概念の下において形成されるであろう市場価値と乖離することとなる場合における不動産の経済価値を適正に表示する価格」とは、正常価格の前提となる市場の「合理的と考えられる条件」のいずれかを欠く市場で成立する価格であり、必ずしも何らかの市場で成立するものではありませんが、対象不動産の特定の経済価値を表示する価格を指します。
特定価格は、法令等による社会的要請を背景とする鑑定評価目的の観点から、正常価格の前提となる合理的と考えられる市場の条件の一部を満たさないことにより、正常価格と異なる価格となる可能性があります。
しかし、当該特定価格を求める前提となる条件が対象不動産の属する市場の特性等と一致していると判断される場合には、前提となる市場に相違がないため、求められる価格は正常価格と同一の市場概念の下において形成されるであろう市場価値と乖離しません。このような場合の価格の種類は正常価格となります。
b. 特定価格を求める場面
特定価格は、正常価格の前提となる合理的と考えられる市場の条件の一部を満たさない価格であり、例外的に求めるものです。無秩序に許容すると鑑定評価書の利用等の利便を害するおそれがあります。
このため、基準では特定価格を求められる場合を「法令等による社会的要請を背景とする鑑定評価目的の場合」としています。
すなわち、法令等の目的から投資家や利害関係者等に対象不動産の価格の開示等を行う場合において、法令等の目的から正常価格の前提となる諸条件を満たさないことにより、正常価格とは異なる価格を求める必要がある場合です。
なお、法令等には各種会計基準や監査基準も含まれます。
c. 特定価格を求める場合の例示について
(a) 各論第3章第1節に規定する証券化対象不動産の鑑定評価目的の下で、投資家に示すための投資採算価値を表す価格を求める場合
この場合の鑑定評価目的は、投資対象資産の投資採算価値を適切に開示することにありますので、投資法人等が計画している運用方法に基づく標準的な投資期間に得られる収益に基づく投資採算価値を求める必要があります。
投資法人等が計画している運用方法は、必ずしも対象不動産の最有効使用と一致するものではありません。そのため、正常価格の前提となる市場の合理的と考えられる条件の一部を満たさない場合の鑑定評価を行うことは、正常価格を求める場合の考え方と一致するものではありません。
したがって、上記鑑定評価目的の下で、投資法人等が計画している運用方法を所与とすることにより、正常価格を求める場合の条件の内容と異なることとなる場合には、特定価格として求めなければなりません。
流動型の証券化の場合には、対象不動産が必ずしも一般投資家の投資対象とならないことから、投資採算価値を表す特定価格に乖離が生じる場合も多いですが、REIT等の運用型の証券化の場合には、標準的な保有期間に得られる収益に基づく収益価格が市場で形成されている場合が多く、結果として正常価格を求める場合と大きな差異がないと想定されます。
なお、対象不動産の使用現況と異なる運用方法を前提とする場合や、市場価値と収益価値が乖離しているような不動産については、正常価格との相違を示すことにより投資家への注意喚起を行うことが必要です。
また、証券化対象不動産のうち、担保証券のように対象不動産の投資採算価値ではなく売却可能価格としての担保価値が重視される場合は、正常価格を求めれば足ります。
さらに、投資法人等が投資対象資産を譲渡する場合には、購入者は利用方法について証券化対象不動産であることに制約を受けません。そのため、投資法人等への投資家に対して市場での適正な売却価格(市場価格)が示されれば足ります。求める価格は正常価格となります。
(b) 民事再生法に基づく鑑定評価目的の下で、早期売却を前提とした価格を求める場合
この場合の鑑定評価目的は、対象不動産を処分するものとして、競売を類型と即した場合の市場価値を適切に開示することにあります。そのため、通常より短期間で売却した場合の適正な処分価格として求める必要があります。
対象不動産に対する需要が高く、標準的な市場公開期間を経て成立する価格と、当該短期に売却した場合の価格とに特段の差異がないと認められる場合を除いて、適切に早期売却による価格を反映した処分価格を求める必要があります。
(c) 会社更生法又は民事再生法に基づく鑑定評価目的の下で、事業の継続を前提とした価格を求める場合
この場合の鑑定評価目的は、会社更生法又は民事再生法を適用して現在の事業を継続した場合に得られる収益に基づく価格と、処分した場合の価格を比較することにあります。そのため、現在の事業から将来得られる収益に基づく価値を求める必要があります。
また、基準各論第1章第4節ⅲに規定している事業の継続を前提とした価格を求める鑑定評価の手法は、現在の事業を継続した場合に得られる収益に基づいて価格判断を行うものであり、必ずしも対象不動産の正常価格を求める場合に適用する鑑定評価の手法と一致するものではありません。
したがって、上記鑑定評価目的の下で、現在の事業の継続を所与とすることにより、正常価格を求める場合の条件の内容と異なることとなる場合には、特定価格として求めなければなりません。
